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May 15, 2004

上を向いて歩いたのはいつだっけ?

 「日本のポップスが本当に海外で売れるのか?」という話になるといつでも、ある年代以上の人間なら必ず「上を向いて歩こう」の話に思い当たる。坂本九が歌ったこのシングルは、1963年の全米ヒットチャート「ビルボード」で3週間、「キャッシュボックス」に至っては4週間に渡って1位を獲得している。

 この曲のタイトルが海外では「Sukiyaki(スキヤキ)」というのも有名な話。どうして「上を向いて歩こう」がスキヤキになってしまったのかは諸説あるらしいけど、それを詳しく解説をしている秀逸なWebページがあったので、興味のある人はコチラ(注:BGM鳴ります)を参照してください。曲自体の素晴らしさや全米ヒットした経緯も詳しく書いてあって、音楽への愛情を感じます。ちなみに、このページ、神戸市にあるみやもと小児科のホームページの一部でした。ビックリです…。

 で、ここからが本題なんだけど、「上を向いて歩こう」のスタッフは誰一人として、端からビルボードでナンバーワンを目指そうなんて考えてなくて、良い曲を作って、良い歌詞を作って、気持ちを込めて歌って、それを録音してレコードにしたという、ただそれだけだったと思うんだよね。そうしたら、良い作品になったので、聴いた人の多くが感動して、結果的に世界的なヒットになった。

 あと1年遅ければ、ビートルズが登場してポピュラーミュージックの世界は完全に様変わりしているので、この曲が全米チャートを制覇する事件は起きなかったかもしれない。おそらく、万に一つの組み合わせが作用した超ラッキーな出来事。

 でも、ただラッキーなだけじゃなくて、「上を向いて歩こう」というレコードにおける坂本九の歌声は、日本語を判らない人が聴いても感動するほどに説得力を持っていたのを否定できない。そして、坂本九が歌手としての才能を最大限に発揮できたのは、メロディーと歌詞が良かったからこそ。つまり、曲・詞・歌い手のそれぞれが、互いのポテンシャルを高めあって花開かせたということ。

 「上を向いて歩こう」というのは良く出来た曲で、聴く側の受け取り方次第で、ラブソング(失恋)ともとれるし、そうじゃない聴き方もできる。面白いのは、歌のテーマみたいなものが実は、Red Hot Chili Peppersの「Under The Bridge」とちょっと似ているということ。どちらも生きていく時に感じる孤独を表現していて、時代や国に関係なく、人の感情ってのはやっぱりどこかで共通点を持っているのだなと感心する。残念ながら、「Sukiyaki」の英語詞は、「上を向いて歩こう」みたいに深みのあるものじゃないので、レッチリのメンバーはそんなこと思いもよらないだろうけど(笑)。

 今回改めて聞き直して感じ入ったのは、間奏と終わりに出てくる口笛がかなり重要な効果を出しているあたりかな。さすがに40年以上前の曲なので、今聴けば古くさいのは否めないながら、ちゃんと聴いたことがない人は、一度オリジナルを聴いてみると良いかも。

 最後に蛇足を。今の日本で売られている音楽の中には、曲自体が出来上がるずっと前からタイアップが決まっていたり、どういう客層に何枚売るかというところまで細かくマーケティングされていたりするものがそれなりに結構な数あります。そして、シーケンサーが演奏するバックにのせる下手な歌手の歌声は、ハーモナイザーを通せば完璧な音程に修正可能。そういう「捕らぬ狸の皮算用」的な工業製品が、果たして「上を向いて歩こう」と同じような感動を人々に与えてくれるかどうかは謎だけど、国内チャートで上位にランクインしてたりするのも事実。全部が全部そういう訳ではないけどね…。



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